
監修者
株式会社日本提携支援 代表取締役
大野 駿介
過去1,000件超のM&A相談、50件超のアドバイザリー契約、15組超のM&A成約組数を担当。
(株)日本M&Aセンターにて、年間最多アドバイザリー契約受賞経験あり。
新規提携先の開拓やマネジメント経験を経て、(株)日本提携支援を設立。
「会社を売る」という決断は、経営者人生の中でおそらく一度きりの選択です。にもかかわらず、事業売却の現場では「思ったより価格が低かった」「担当者に任せきりで後悔した」「手続きが終わってから問題が出てきた」という声が後を絶ちません。初めての経験だからこそ、全体像と落とし穴を事前に把握しておくことが、納得のいく結果につながります。
この記事では、事業売却を検討し始めた経営者の方に向けて、プロセスの全体像から価格の決まり方、支援会社の選び方まで、弊社が600件以上の相談支援を通じて培ってきた現場の知見をもとにお伝えします。
事業売却とは何か——株式譲渡と事業譲渡の違いから整理する
事業売却という言葉は広く使われていますが、実際には大きく2つの形態があります。一つは「株式譲渡」、もう一つは「事業譲渡」です。この違いを最初に理解しておくことが、その後の交渉や税務処理に直結します。
1-1. 株式譲渡
株式譲渡とは、オーナーが保有する会社の株式を買い手に売り渡す方法です。会社そのものが買い手の傘下に入るため、既存の契約・許認可・従業員雇用関係はそのまま引き継がれます。手続きがシンプルで、中小企業のM&Aでは最もよく使われる形態です。売り手側のオーナーにとっては、株式の譲渡益に対して約20%の分離課税が適用されるため、税負担が比較的明確に計算できます。
1-2. 事業譲渡
事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を資産・負債・契約ごとに切り出して売る方法です。会社自体は売り手側に残るため、特定の事業だけを切り離したい場合や、不採算部門を分離したい場合に活用されます。ただし、個々の契約や許認可を個別に引き継ぐ手続きが必要になるため、株式譲渡より手間がかかるケースが多くなります。
どちらの形態が適切かは、売却の目的・会社の状況・税務上の影響によって異なります。弊社では初回の無料相談の段階から、どちらの形態が売り手にとって有利かを具体的に整理するところから支援を始めています。
2. 事業売却のプロセス——全体の流れを把握する
事業売却は「相手を見つけて契約する」だけではありません。準備から成約まで、複数のステップが順番に積み重なります。全体像を把握していないと、途中で慌てることになります。
2-1. 準備段階(相談〜アドバイザリー契約)
最初のステップは、M&A支援会社への相談です。この段階では、売却を検討している背景、会社の事業内容・財務状況・従業員構成、希望条件(価格・雇用・自身の関与度合い)などを整理します。支援会社との間でアドバイザリー契約(提携仲介契約)を締結し、正式に支援が始まります。
契約時に必ず確認すべきなのが「専任か非専任か」という点です。専任契約は一社のみに依頼する形態で、非専任は複数の支援会社に並行して依頼できます。まず市場の反応を確かめたい段階であれば、着手金が無料の非専任契約から始めるという選択肢もあります。
2-2. マッチング準備(企業価値算定〜企業概要書作成)
次に、自社の企業価値を算定します。中小企業のM&Aで最も一般的なのは「時価純資産+営業権(のれん)」という方法です。計算式は「株式価値 ≒ 時価純資産 + 実体営業利益×倍率」で表され、倍率の目安は2〜3倍程度です。
ここで重要なのは、「実体営業利益」の算出精度です。決算書に計上されている費用の中には、オーナー個人の資産管理会社への業務委託料や私的な接待交際費など、本来は会社の収益力とは関係のない支出が含まれていることがあります。これらを「足し戻し」して実体的な収益力を正確に算出することが、適正な株価算定につながります。この調整作業は担当者の経験値によって大きく差が出る部分であり、弊社では担当者のスキルが最終的な手取り額に直結すると考えています。
企業価値算定と並行して、買い手候補への提案資料として「ノンネームシート(匿名の概要資料)」と「IM(インフォメーション・メモランダム:企業概要書)」を作成します。IMは買い手が最初に詳しく目にする資料であり、事業の強み・リスク・成長余地を事実に基づいて伝えるものです。「売り込み過ぎず、控えめ過ぎず」というバランスが重要で、あえてリスクや課題も記載することで、かえって買い手からの信頼を得やすくなります。
2-3. マッチング〜トップ面談
支援会社が買い手候補先のリストを提示し、提案不可先を確認した上で、ノンネームシートを送付します。興味を示した買い手にはIMを開示し、トップ面談へと進みます。
トップ面談は単なる条件交渉の場ではなく、互いの経営哲学や価値観が合うかを確かめる「信頼関係構築の場」です。この場で価格交渉を持ち出すことはむしろNGとされており、会社の成り立ちや従業員への想いを自分の言葉で伝えることが求められます。
2-4. 基本合意〜デューデリジェンス
複数の買い手候補と面談を重ね、条件が折り合った相手と「基本合意書(LOI)」を締結します。LOIには独占交渉権・価格の概要・スケジュールなどが盛り込まれます。法的拘束力はほぼなく、基本合意前であれば引き返すことも可能です。
基本合意後は「デューデリジェンス(DD:企業調査)」に入ります。財務・税務・法務・労務・ビジネスの各側面から、会社の実態を買い手側の専門家が詳細に調査します。ここで重要なのは「情報を隠さない」という姿勢です。隠していた事実が後から発覚すると交渉決裂の原因になります。事前に指摘が出そうな論点を把握し、背景説明資料を用意しておくことが、スムーズなDD通過につながります。
2-5. 最終契約〜クロージング
DDの結果を踏まえて最終的な条件を確定し、最終契約書(株式譲渡契約書など)を締結します。特に確認が必要な条項は、表明保証(会社の状態について売り手が保証する条項)、競業避止義務(売却後の類似事業禁止)、クロージング条件の3点です。最終契約書は高度に専門的な内容を含むため、M&A業務に精通した弁護士のレビューが不可欠です。
契約締結後、署名・送金・登記の各ステップを経て、M&Aが正式に完了します。その後は従業員・取引先への開示と、PMI(Post Merger Integration:統合作業)へと移行します。
準備から成約まで、一般的に6ヶ月〜1年以上かかることも多く、「すぐ売れる」という思い込みは禁物です。
3. 事業売却の価格はどう決まるか——成約価格を左右する本質
「自社はいくらで売れるのか」は、事業売却を検討する経営者が最も気になる点です。ここには多くの誤解があります。
3-1. 未上場株は「一物一価」ではない
上場株と違い、未上場の中小企業の株式には市場価格がありません。同じ会社でも、買い手によって提示価格は大きく異なります。これは「シナジー(相乗効果)」の大きさが価格に直結するからです。
例えば、同業の大手企業が買い手であれば、既存の顧客基盤や販売網をそのまま活用できるため高い倍率を提示できます。一方、投資ファンドは財務的なリターンを基準に評価するため、倍率は相対的に低くなる傾向があります。弊社の経験では、買い手のシナジーによって倍率が3倍から6倍程度まで変わるケースも珍しくありません。
「いくらで売れるか」は、どんな買い手にどうアプローチするかで大きく変わります。数ある買い手候補の中から、シナジーを最大限に引き出せる相手を見つけ、その投資ロジックに沿った提案ができるかどうかが、成約価格を左右する最大の要因です。
3-2. 手数料の仕組みを事前に理解する
M&A支援会社への報酬は、多くの場合「レーマン方式」で計算されます。成約価格に一律の料率をかけるのではなく、金額区分ごとに段階的な料率を適用する方法です。例えば、株価7億円の案件であれば「5億円以下の部分×5%+5億円超〜7億円の部分×4%」で計算し、合計3,300万円の手数料となります。
注意が必要なのは「最低報酬額」の設定です。大手M&A支援会社では最低報酬額が2,000万円に設定されているケースが多く、小規模案件では計算上の手数料より実際の支払額が大きくなることがあります。相談前に「売却価格◯億円なら手数料はいくらになるか」を具体的に確認しておくことが重要です。
4. M&A支援会社の選び方——担当者で結果が変わる
事業売却の成否は、M&A支援会社の「会社名」ではなく「担当者」で決まります。これは現場で繰り返し実感することです。
4-1. 仲介会社とFA会社の違い
M&A支援会社には「仲介会社(売り手・買い手双方と契約)」と「FA会社(片側のみと契約)」の2種類があります。仲介会社はスピーディに買い手を探せる反面、双方の利益を調整する立場であるため、売り手の条件を最優先にはできないこともあります。FA会社は売り手の立場に立って交渉しますが、相手探しに時間がかかる場合があります。どちらが適しているかは、優先する条件(スピードか、条件の最大化か)によって異なります。
4-2. 担当者を見極める5つの視点
支援会社を選ぶ際に確認すべきポイントは以下の5点です。
担当者のマッチ度:自社に近い業種・規模の成約実績があるか
コミュニケーションの質:質問への回答が早く、説明が明瞭か
報酬の透明性:テール条項や専任条項を含めて明示しているか
買い手ネットワークの具体性:候補先の提示が具体的か
進行姿勢:成約至上主義ではなく条件を一緒に吟味してくれるか
弊社では、ある解体工事業のお客様が大手M&A会社と面談したものの「担当者に業界の知見がなく、買い手候補も納得できるものではなかった」というご相談を受け、業界知識に明るいベテランの担当者をご紹介し、成約に至ったケースがあります。また、ある菓子製造業のお客様は直接M&A会社に相談したものの担当者の印象が良くなかったため、弊社経由で同業実績のある担当者に切り替えて成約されました。大手であっても新人担当者では手続きが停滞することがあり、中堅・中小の支援会社でも経験豊富なベテラン担当者であれば高品質なサポートが期待できます。
4-3. 弊社の立場と役割
弊社はM&A仲介会社ではなく、売り手・買い手双方にとって中立的な立場でM&A支援会社を紹介・伴走する窓口です。地方自治体との連携協定実績や600件以上の相談実績を通じて、M&A支援実績が豊富で「業界に精通している」「買い手候補先を持っている」という条件を満たす担当者を、売り手の状況に合わせてご紹介しています。希望条件の整理からM&Aの進め方のアドバイス、適切な支援会社探しまで、成約まで無料で伴走支援する体制を整えています。
5. 事業売却で失敗しないための実務的な注意点
5-1. 秘密保持の徹底
事業売却の検討が社内・取引先・競合に漏れると、従業員の離職や取引先の動揺につながります。NDA(秘密保持契約)は本格的な情報交換の前に締結するのが原則ですが、秘密保持期間が5年以上など過度に長い場合は将来の事業活動に影響する可能性もあるため、契約内容の確認が必要です。
5-2. 連帯保証の解除を最終契約の条件にする
中小企業のオーナーが個人として会社の借入れの連帯保証人になっているケースは多くあります。買い手が連帯保証の引き継ぎを約束していても、実際に外れなかった場合に備えて、連帯保証の解除を最終契約の絶対条件として明記しておくことが重要です。文言が曖昧だと、解除されなかった場合に白紙に戻すことが難しくなります。
5-3. 従業員・取引先への開示タイミング
従業員への開示はクロージング後が一般的ですが、開示のタイミングと説明内容は事前に買い手と合意しておく必要があります。多くの買い手は従業員の継続雇用を強く希望しており、給与も現行と同等以上を維持する方向で交渉するケースが多くなっています。弊社ではクロージング後の従業員説明会への同席も含めて支援しています。
5-4. 赤字・債務超過でも売却できるケースがある
「赤字だから売れない」と思い込んでいる経営者の方は少なくありません。しかし、事業売却の価値は財務数値だけで決まるわけではありません。弊社がご支援したある運送業のお客様は、赤字・債務超過の状態でしたが、大手M&A会社では手数料が高額で断念されていたところ、弊社経由で3カ月でM&Aを実現されました。買い手にとって価値があるのは、許認可・顧客基盤・人材・設備など、財務諸表には表れない資産であることも多くあります。
6. まとめ——事業売却は「準備」と「人選」で決まる
事業売却の成否は、早い段階から準備を始め、信頼できる担当者を選べるかどうかにかかっています。価格だけを追うのではなく、従業員の雇用・取引先との関係・事業の継続性を含めた「責任ある引き継ぎ」を実現することが、本当の意味での成功です。
まず自社にどんな買い手が出てくるのか、いくらで売れそうなのか、いつ進めるのがよいのかを明確にすることが第一歩です。前々から準備しておくことで、担当者選びや条件交渉に十分な時間を使えるようになります。
弊社は、M&Aを真の「提携支援」と位置付け、地方自治体との連携協定実績や600件以上の相談実績を通じて培ってきたノウハウで、中小企業の経営者の皆様のM&Aを力強くサポートしています。M&Aについてご不明な点や不安なことがあれば、どんな些細なことでも構いません。ぜひ一度、弊社にご相談ください。
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